新庄水田トラスト

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最終更新日 2023年02月10日


遺伝子組み換え稲を考える 
新庄水田トラスト(ネットワーク農縁)世話人・田中正治

A)遺伝子組み換えとは
  1. 人間は60兆の細胞から出来ているといわれています。細胞には核があり、その核の中には染色体があります。染色体は対になっていて、一方は父から他方は母からもらっています。この染色体が生物の遺伝情報をつかさどっているのですが、この染色体全体がゲノムといわれます。染色体を構成しているのが2重ラセン状の長いDNAで、そのDNAのあちこちの環に、3%−5%種特有の遺伝子があり、残り95%−97%は睡眠遺伝子といわれています。

  2. 遺伝子組み換えは、原核生物を除く微生物、植物、動物が分子レベルでは共通のDNAに還元できることを応用した技術で、現在3つの方法があります。1)アグロバクテリュウム法 2)エレクトロポーレーション法 3)パーティクルガン法。1)のアグロバクテリュウム法を例に取ります。その方法は、植物の細胞に自由に出入りできるアグロバクテリュウムという土壌細菌の核外遺伝子・プラスミドを取り出し、それを制限酵素(異種のDNAを分解する酵素)で切り、切った部分に、例えば病気に強い遺伝子の断片を入れ、そのプラスミド・ベクターを再び元のアグロバクチェリウムに戻し、それを植物細胞に感染させ、培養します。その場合、病気に強い遺伝子が確実に組み込まれたかどうか確認するために、その植物細胞を確実に殺す抗生物質に耐性を持つ遺伝子を、プラスミド・ベクターにつなぎます。数日後、アグロバクテリュウムを殺す抗生物質で殺菌します。次ぎに、植物を殺す抗生物質で処理します。遺伝子組み換えしていない全ての細胞は死んでしまいます。遺伝子組み換えした細胞は、抗生物質耐性を持っているので生き残ります。生き残った細胞を育て植物体に生育します。遺伝子組み換え植物が出来ます。

  3. 自然界でも遺伝子組み換えは行われています。生殖細胞(精子と卵子)が作られる時には、日常的に遺伝子組み換えが起こっているといわれます。これが生物の多様性を生み出す原因です。しかし、そこで組替えられるのは親の遺伝子であり、親の持っていない遺伝子の組替えは起こりません。種の壁は越えないのです。
    (「遺伝子組み換え食品に未来はあるか」参照)
B)遺伝子組み換えと伝統的品種改良(交配)との相違
  1. 作物の遺伝的特徴を換えて、新しい系統を作ることを目的とする点では両者は共通しています。(例・コシヒカリ)

  2. 交配法は、固体レベルで花粉をメシベに受粉させる方法で、生殖細胞の染色体の中にある遺伝子を受粉させて、メシベの細胞核の染色体と合流させ、減数分裂を通して染色体の組換えや配分をし、後代の遺伝子の組合わせが決まる。その中から目的の遺伝子を持った作物を選ぶのです。

  3. 遺伝子組み換えは、遺伝子レベルで、目的の遺伝子を一本釣りして、相手の遺伝子に組み込み、遺伝子情報を換える方法で、生物の生殖過程を経ません。その特徴としては、DNAの断片を用いるので、どの生物間でも遺伝子組み換えが可能になります(種の壁を越える)。固体を対象とした交配法と異なり、実験室で細胞レベルでの操作が出来ます。

  4. 交配法では、多数の受粉した花粉の間で競争が起こり、一番元気な花粉が受精し、良い子孫を残すことになります。細胞質、核、染色体、これらの相互関係の中で、生物は種族の維持の「掟」を守っているのです。この「掟」を守ることが実質的同等を保証するのです。交配法は、様々な遺伝子の組み合わせを作り出す方法であり、種の多様性の仕組みを利用した、多様なものの中からよいものを選び出す方法なのです。
C)実質的同等と予防原則
  1. 化学物質の安全性の評価方法は、様々な基礎実験をした後、大量、高濃度で長期の動物実験を行い、その動物の一日摂取許容量を算出します。例えば、数百匹のネズミに化学物質を与え、データを取り、ネズミの安全基準に100分の1をかけたものを人間の安全基準とします。

  2. ところで、遺伝子組み換え食品は、食べ物ですから、化学物質を投与するように濃度を高く出来ませんし、又大量にも投与できません。この壁を乗り越えるには、実験に用いるネズミの数を増やさなければなりませんが、経費が膨大にかかります。例えば全ての日本人に対する安全性を保証するために、ネズミの一群を人口と同じ一億二千万匹にすると、少なくとも3段階の濃度ごとに一億二千万匹のネズミが必要となり、総計三億六千万匹のネズミが必要となり、経費がかかりすぎてこんな実験は出来ません。仮に実験したとしても、人間の安全性を考えて、安全係数100分の1をかけると、食品に使用できる量は1%以下となり、実質的には使用出来ないのと同じになってしまいます。

  3. そこで、遺伝子組み換え食品を安全として売り出すために考えられた概念が「実質的同等」です。組織体の成分、形態を検査して、既成のものと同等であれば、実質的同等として、食品の安全性を認めるというのです。

  4. アグロバクテリュウム遺伝子と除草剤に強い遺伝子を導入したラウンドアップ耐性大豆を厚生省は、「既成の大豆と構成成分(たんぱく質、灰分、油分、繊維、炭水化物)に関し、同等であった」という結論を出しました。しかし1996年許可された後、大豆の栄養成分の一つで、ガンや心臓病、骨粗樵症を防ぐとされるイソフラボンが、従来の大豆と比べて12%−14%少ないという研究結果が、アメリカのM/A.ラップ博士からだされました。栄養成分が異なるものは実質的同等とはいえないのに、その事実は無視されました。

  5. モンサント社や米食品製造者協会は、実質的同等の概念が崩れるかもしれないと感じ、それを「科学的原則」であると主張しました。しかし、OECD元専門委員ヘンリー・ミラー博士は、「実質的同等は行政上、法規制上の概念であり、科学の公式ではない」と述べました。

  6. 「予防の原則」は、1992年ブラジル・サミットで承認された原則で、1995年2月フランス「バルニエ法」でこの原則が採用されました。
    (「遺伝子組み換え食品の避け方」―コモンズ参照)
D)アッパード・プシュタイ博士の実験
  1. 博士は、1990年―1998年末までスコットランド・アバディーンのローウエット研究所の主任研究員であり、植物の殺虫蛋白(レクチン)研究の世界的権威として有名でした。

  2. マツユキ草の球根の遺伝子を組み込んだジャガイモを、ラットに食べさせる実験を行いました。第一のラットグループには遺伝子組み換えしていないジャガイモを、第二のラットグループには遺伝子組み換えしていないジャガイモに、遺伝子組み換えで発現する量と同量の殺虫蛋白を添加したジャガイモを、第三のラットグループには、殺虫蛋白生成の遺伝子を組み込んだジャガイモを餌にしました。その結果、第二グループのラットには肝臓が軽くなる現象がみられ、第二、第三グループでは、すい臓と睾丸に影響がみられ、又第三グループでは、胃の粘膜の厚みが顕著に増大し、腸の柔突起の細胞増大と内臓器官の増大が検証されました。遺伝子組み換えジャガイモは、元のジャガイモと蛋白質、デンプン、糖分、レクチン(殺虫蛋白)、トリプシン等組成、栄養的に実質的同等でないなかった、という結論に達しました。

  3. 「遺伝子組み換えジャガイモの潜在的に有害な主要な影響の一部は、組替え遺伝子の存在によるものだったが、しかし、異常を引き起こした事実に主に影響を与えたのは、遺伝子組み換え技術そのものや、ジャガイモのゲノムの中での遺伝子の振る舞いによるものであることを、私達の実験結果の多種類の統計的分析は物語っている」(プシュタイ博士・2000−3−14NGO国際集会)
E)遺伝子組み換え食品に反対するいくつかの理由
  1. BT毒素耐性―スーパー害虫誕生の可能性
  2. 除草剤耐性―スーパー雑草誕生の可能性
  3. 抗生物質耐性マーカー使用―人体の抗生物質耐性化
  4. 睡眠遺伝子への刺激―予想不可能
  5. アレルゲンの生成の可能性
  6. 生態系への遺伝子汚染―風、水、渡り鳥などによる拡散
  7. 組替えDNAの微生物、植物、動物への水平的移動
  8. ガン発症の可能性
F)遺伝子組み換えは、世界の食糧問題を救うか
  1. 現在食糧問題は、第三世界で起こっていますがその主要な原因は、世界経済システムにあります。金融面、貿易面、産業面で北の巨大資本と国家が、経済的に支配した結果、第三世界の国々は、自給用作物から輸出用換金作物へと農業を移行せざるを得ない状況に追い込められた結果です。循環型農業が再生可能な世界経済システムの構想が不可欠です。

  2. 人口爆発と世界の耕地面積とのギャップが原因との考えがあります。耕地面積の拡大は、人口の増大に対応できません。US,ロシア、中国、インドン土世界の穀倉地帯で表土の流失、塩害、砂漠化が拡大しており、アジア等工業化のすすむ地域で農地の喪失が進んでいます。この場合、人口爆発は南の国で進んでいて、その原因は、都市でも農村でも貧しい人達が食糧依存型であること、南の農村部にすむ5億人の人達が農地をもっていず、食糧依存型になっていることです。人間の食糧となる穀物を家畜に与え、その肉を人間が食べるという不合理をやめるなら、絶対的にも食糧は不足することはないでしょう。肉食中心から穀物中心への転換です。

  3. 大規模農業の方が食糧生産に能率的だとの見解があります。これに関して、1989年アメリカの調査委員会報告によれば、「よく経営されているオルタナティブ農業の方が、常に、農薬、化学肥料、抗生物質の使用が,土地の単位面積あたり、現在の農業より少ない。投入資材が少ないため生産費用が少なくてすむ、作物収量を減少させず、家畜管理システムの生産性も減少させず、環境や人体に与える影響を減少させる」と報告されています。

  4. 「ラウンドアップ・レディー大豆の収量低下の程度とその結果」(Dr/チャールズ・ベンブルック)ベンブルックは、元アメリカ化学アカデミー農業委員会委員長を勤めたアメリカ農業の病害虫専門家です。遺伝子組み換え作物は、従来の品種よりも病害虫に強く、収量も多いという宣伝が行われているが、そのほとんどがメーカーサイドのものでした。「ベンブルック報告」は、かつてない規模で、厳密に科学的に管理された条件下で、大学独自に行われた収量調査データを整理した、という点で画期的と言われています。以下報告の要点です。

    • 収量トップのラウンドアップ・レディー品種(以下RR)と在来種を比較すればRR大豆の方が、1エーカー当り、平均4.6ブッシェル、すなわち6.7%収量が低下している。
    • 8つの州のテストでは、収量トップのRR5品種の平均収穫高を比較すれば、在来種に比べて、収穫低下は平均6.1%であった。
    • 中西部のいくつかの地域ではRRより、普通の品種の方が収穫量は10%多かった。
    • RR大豆は除草剤に大きく依存していて、除草剤の使用が減少するものではない。10倍以上の除草剤を使用している。
    • RRを使用する農家は、収量低下と開発費により、収入は数%から12%減少している。(「Round upReady大豆の収量低下の程度とその結果」参照)

G)モンサント社
  1. 世界第二の農薬メーカー、世界最大の種子メーカーの一つ、世界最大の製薬メーカーであり、「クリーンとグリーン」な企業であると宣伝している。
  2. 1901年サッカリン製造
  3. 1920年硫酸製造
  4. 1940年代まではプラスティックと合成繊維が中心
  5. 1929年PCBを開発
  6. オレンジ・エージェント(除草剤・枯葉剤、ベトナム戦争で使用)を開発
  7. ラウンドアップ・世界で最も売れる除草剤開発。(1997年、ニューヨーク州司法長官は、RRの広告は誤解を招きかねないと判決。RRは生分解性で環境にやさしいという表現を削除)
  8. 人口甘味料・アスパルテーム開発。「アスパルテームは脳腫瘍を引き起こす恐れがある」と1981年、米食品医薬品局調査委員会が報告。
  9. 遺伝子組み換え・牛成長ホルモン(rBGH)開発。(1990年、バーモント大学の獣医病理学者はrBGHを投与された牛が、乳房に炎症を起こす率や、奇形牛を生む率が上昇したというデータを州の議員に送った。)
  10. RR農薬とRR大豆とをセットで販売する戦略を取っている。
  11. 種子支配。―(1998年、US,NO2の種子会社デ・カルブ・ジェネティック社を買収し、また、ターミネーター技術の特許を持つUS最大の綿花種子企業・デルタ&パイン・ランド社を買収。)

    (「モンサント・ファイル」参照)
H)生命の知的所有権

* 生命の知的所有権(特許権)には、およそ3つの考え方があります。

  1. 生命特許を認めるべきという立場―大きな資本投下によって特許は作られているので、生命に対する特許も、人間の発明ならば認めるべきとするバイテク企業の立場

  2. 生命特許を南北で分配すべきという立場―バオテク開発の材料に関する研究と努力は、途上国の農民や村民が、長い間重ねて来たものだから、特許による利益を途上国にも分配すべきという立場

  3. 生命特許は認めないという立場―生命特許そのものが根本的に間違っている。自然界から発見されたものは、発明されたものとは言えない。したがって、特許を認めない。自然界に存在する化学元素を発見しても、いかなる特許も認められないのと同様であるという立場。
    *私自身は、生命特許は認めないという立場を取ります。

  4. TRIPS(貿易関連知的所有権)−先住民が守ってきた種子の所有権が企業に認められました。UPOV(植物新品種保護國際条約)やTRIPSには、農家が、種子を自家採取した場合でも、その農家が特許料をしはらわなければならないという条項が盛り込まれています。

    (「生物特許と遺伝子支配について」杉田史朗理学博士・参照)

I)イネの遺伝子組み換え

  1. 遺伝子組み換え食品に反対する世界のNGOのボイコットや表示請求の運動に押されて、遺伝子組み換え関連多国籍企業は、大豆、トウモロコシなどから、世界の主要穀物であるイネと小麦にそのターゲットを移動しています。中国、インド、日本などアジアの米作地帯が販売市場の焦点になっています。

  2. 従来の遺伝子組み換えイネが、除草剤耐性か害虫耐性などであったのに対して、これからの第二世代遺伝子組み換えイネは、低アレルゲン、鉄分増強、コレステロール低下など消費者メリットを狙ったものにシフトしています。しかし、これらの要素は米、大豆製品、野菜、海草、魚、肉等をきちっと取り、出来るだけ農薬、化学肥料の少ない作物で食生活をしていれば不必要なものです。ビタミンAライス・鉄分増強イネは、第三世界の栄養状態の改善、をうたい文句にしていますが、それも栄養の偏らない食生活で解決できるものであり、高い付加価値米を買わせるバイテク企業の利益とイネ支配が目的なのです。

  3. イモチ病耐性イネーイモチ病耐性イネの仕組みは、もともとイネが病原菌に感染した時、自ら増やす生体防御タンパク質を、遺伝子組み換えによってあらかじめ増やしておこうというものです。しかし、この生体防御タンパク質はアレルゲンであり、アレルギー疾患の誘発原因となる可能性があります。この遺伝子組み換えは、特定品種への作付け偏向を起こし、ひとつの病気が起これば取り返しのつかないことになるかもしれません。イモチ対策としては、密植を避け、風とうしを良くし、土づくりを基本にして、丈夫な苗を作り、農薬、化学肥料にできるだけ依存しない方法を見なおすべきではないでしょうか。

  4. イネにイネの遺伝子を導入するのなら、種の壁を越えないから問題はないのではないか、という意見があります。確かに種の壁は越えませんが、遺伝子組み換えでは、やはり、アグロバクテリュウムのベクターや抗生物質耐性のマーカー遺伝子を一緒に入れなければならず、そのことによる、抗生物質耐性菌の発生やまた、睡眠遺伝子を刺激することによる予期出来ない事態が起こる可能性を排除することは出来ません。

  5. 2000年3月10日農水省は、日本モンサントが申請していた遺伝子組み換えイネの国内作付けを承認しました。茨城県にあるモンサント社の圃場で、日本での種子販売・作付けと米の輸入をにらんだ除草剤耐性イネの実験が行われています。また、2000年4月28日には、日本モンサントと愛知県農業試験場が組んで開発した除草剤耐性イネ、オリバ社の低グルテンイネ、全農のヒトラクトフェリン導入イネ(鉄分増強)の日本での作付けに農水省は、ゴーサインを出しています。
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